家族みんなが幸せになる、お得な生前贈与の戦略とは?

祖父母や父母から自分へ、あるいは、自分から子や孫へ。家族間の金銭的なバックアップや将来の遺産相続について、気になり始めている――。そんな方々の多くが求めているのは、いかにその財産を上手に引き継いで、家族みんなの幸せのために有意義に活用するかということではないでしょうか。まだ元気なうちから計画的に家族に財産を贈与する生前贈与という手法が近年注目されているのも、こうした背景からでしょう。 

「贈与」とは、ある人が別の人に無償で財産を与えることです。そして贈与税は、その受け取った財産に応じて、受け取った人に課せられる税金のことです。贈与税は相続税の「補完税」と言われており、相続税よりも高い税率となっています。

ところがその一方で、贈与に関する各種控除の規定も「基礎控除」や「夫婦の間で居住用の不動産を贈与した時の配偶者控除」をはじめ、「住宅取得等資金贈与の非課税の特例」や「祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」など、贈与税が優遇される制度が整備されています。こうした制度を活用することで、お金が必要なライフステージにいる子どもや学齢期の孫の生活をサポートしながら、将来の相続財産を上手に減らすことができます。 

この記事では、こうした贈与税の特例の中から生前贈与に活用できる様々な制度とその活用法をご紹介していきます。 

「生前贈与」とは文字通り、生前(生きている間)に贈与する(財産を与える)ことで、自分の意思で自身の財産を無償で与える行為です。 

生前贈与

贈与税基礎控除

最も基本的な生前贈与は、贈与税の基礎控除を活用するものです。贈与者(財産を与える人)と受贈者(財産をもらう人)に特に制限がないため、ほとんどの場合、この基礎控除が適用されます。贈与税の基礎控除は年110万円です。

  • 贈与税の計算方法(基礎控除の適用方法)
    (もらった財産の価格※-基礎控除110万円)× 贈与税率 = 贈与税額
        ※その年の1月1日から12月31日までにもらった財産の合計価格


110万円というとそれほど大きな金額とは思えないかもしれませんが、この基礎控除枠を長期にわたって活用すれば、数千万円単位の財産を無税で贈与することも可能になります(ただし、後述しますが注意すべきこともあります)。 

子や孫への贈与は贈与税が比較的低い

基礎控除枠を超える贈与に対しては贈与税が課せられますが、その適用税率については、祖父母や父母などから子や孫への贈与の方が、それ以外の贈与よりも税率が低くなるように設計されています。

直系尊属(祖父母、父母など)からその年の1月1日時点で20歳以上の者(子、孫など)への贈与時に適用される贈与税は「特例税率」が適用されます。それ以外の贈与では、「一般税率」が適用されます。 

特例税率と一般税率の速算表は以下の通りで、一般税率よりも特例税率が有利になるのは300万円を超えるところからです。 

(特例贈与財産用・特例税率)

基礎控除後の課税価格200万円以下400万円以下600万円以下1,000万円以下1,500万円以下3,000万円以下4,500万円以下4,500万円超
税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 - 10万円 30万円 90万円 190万円 265万円 415万円 640万円

(一般贈与財産用・一般税率)

基礎控除後の課税価格200万円以下300万円以下400万円以下600万円以下1,000万円以下1,500万円以下3,000万円以下3,000万円超
税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 - 10万円 25万円 65万円 125万円 175万円 250万円 400万円

毎年贈与する場合は定期贈与とみなされないように注意

前述したように、贈与税の基礎控除は年110万円です。贈与税の基礎控除の範囲内で毎年贈与を行っていれば贈与税はかからず無税となります。しかし、複数年にわたって行った一連の贈与が「定期贈与」とみなされると、贈与を行った最初の年に全額が贈与税の対象となってしまいます。

例えば「毎年100万円を15年間にわたって贈与する」ということが、契約書などで最初から約束されている場合などには、定期贈与とみなされ、最初の年に1,500万円(定期金に関する権利として)が贈与税の対象となります。

定期贈与とみなされないためには「毎年贈与のつど契約書を作成する」「贈与のつど金額や時期を変える」などの方法で贈与を行う必要があります。 

定期贈与

夫婦間で住まいを贈与した時の配偶者控除は最高2,000万円

婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産【*1】、または居住用不動産を買うためのお金の贈与が行われた場合には基礎控除110万円に加えて最高2,000万円まで控除できる特例があります。つまり合計2,110万円までの控除が受けられます。例えば夫が10歳以上年上の夫婦の場合などは、夫が他界した後も妻が安心して暮らせるように、自宅を生前贈与しておくといった活用が想定できます。
【*1】ここでの「居住用不動産」とは、専ら居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利または家屋で国内にあるものです。 

なお、この特例を使用できるのは同じ配偶者から一生に一回のみです。 

主な適用要件は以下の通りです。

  1. 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
  2. 配偶者から贈与された財産が、居住用不動産であること、または居住用不動産を取得するための金銭であること
  3. 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること 

住宅取得資金贈与を受けた子や孫は最高3,000万円まで非課税

父母や祖父母などから、子や孫が自分たちの住むための家屋の新築や購入、または増改築などに使うお金をもらった場合で、一定の要件を満たす時は、最高3,000万円までの金額について、贈与税が非課税となる制度もあります。金額的にも比較的大きく、子や孫のその後の生活に寄与するところも大きいので、家を買うために祖父母や父母からお金をもらうことは、合理性のある生前贈与の手法と言えるでしょう。 

<非課税限度額>

A住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合

住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 省エネ等住宅 左記以外の住宅
平成31年4月1日~令和2年3月31日 3,000万円 2,500万円
令和2年4月1日~令和3年3月31日 1,500万円 1,000万円
令和3年4月1日~令和3年12月31日 1,200万円 700万円


B上記A以外

住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 省エネ等住宅 左記以外の住宅
平成28年1月1日~令和2年3月31日 1,200万円 700万円
令和2年4月1日~令和3年3月31日 1,000万円 500万円
令和3年4月1日~令和3年12月31日 800万円 300万円

主な適用要件は以下の通りです。

  1. 贈与を受けた時に贈与者の直系卑属(贈与者は受贈者の直系尊属)であること。
  2. 贈与を受けた年の1月1日において、20歳以上であること。
  3. 贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下であること。
  4. 平成21年分から平成26年分までの贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けたことがないこと(一定の場合を除く)。
  5. 自己の配偶者、親族などの一定の特別の関係がある人から住宅用の家屋の取得をしたものではないこと、またはこれらの方との請負契約等により新築若しくは増改築等をしたものではないこと。
  6. 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること。
  7. 贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること(例外あり)。
    なお、贈与を受けた時に日本国内に住所を有しない人であっても、一定の場合には、この特例の適用を受けることができます。
  8. 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住することまたは同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること。 

子孫の幸せ

教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税

祖父母や父母が、子どもや孫のために教育資金を出すことは、家族全体の将来の幸せに直接的に寄与するという意味で合理的なサポートと言えますし、一般的にもよく行われてきた行為と言えます。こうした教育資金の贈与については、最大1,500万円までの一括贈与非課税制度が用意されています。

教育資金として認められる範囲も広く、入学金や授業料などのいわゆる学費はもちろん、スポーツや文化芸術活動(ピアノ、絵画など)、留学のための渡航費なども教育資金として認められています。 

30歳未満の方が教育資金に充てるため、金融機関等との一定の契約に基づき、受贈者の直系尊属(父母や祖父母など)から

  1. 信託受益権を取得した場合
  2. 書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合または
  3. 書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等から有価証券を購入した場合

には、その信託受益権または金銭等の価額のうち1,500万円までの金額に相当する部分の価額については、取扱金融機関の営業所等を経由して教育資金非課税申告書を提出することで、受贈者の贈与税が非課税となります。 

教育資金の範囲

非課税制度が適用される教育資金の範囲は次のようなものです。 

  1. 学校や保育所、幼稚園の入学金・授業料、施設設備費、入学試験の検定料など。
  2. 学用品の購入費、修学旅行費、学校給食費など学校教育に伴って必要な費用。
  3. 学校以外の教育(学習塾、そろばん教室など)に関する授業料や施設の使用料、物品の購入料など。
  4. スポーツ(水泳、野球など)や文化芸術(ピアノ、絵画など)、その他教養のために必要な指導料や物品の購入料など。
  5. 通学定期券代
  6. 留学渡航費。また、学校などに入学・転入するために必要になった転居の際の交通費。 

結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税

結婚、そして出産、育児といった人生においてとても大きなベントや営みに対しても、最大1,000万円までの非課税枠があります。 

0歳以上50歳未満の方が結婚・子育て資金に充てるため、金融機関等との一定の契約に基づき、受贈者の直系尊属(父母や祖父母など)から

  1. 信託受益権を付与された場合
  2. 書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合または
  3. 書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合

には、信託受益権または金銭等の価額のうち1,000万円までの金額に相当する部分の価額については、取扱金融機関の営業所等を経由して結婚・子育て資金非課税申告書を提出することにより贈与税が非課税となる制度です。 

結婚・子育て資金の範囲

  1. 結婚に際して支払う金銭で(300万円を限度)
  • 挙式費用、衣装代等の婚礼費用(婚姻の日の1年前の日以後に支払われるもの)
  • 家賃、敷金等の新居費用、転居費用(一定の期間内に支払われるもの)
  1. 妊娠、出産及び育児に要する次のような金銭で
  • 不妊治療・妊婦健診に要する費用
  • 分べん費等・産後ケアに要する費用
  • 子の医療費、幼稚園・保育所等の保育料(ベビーシッター代を含む)などです。 

相続時精算課税制度

相続時精算課税の制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母から20歳以上の子または孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度で、複数年にわたって2,500万円を限度に特別控除を使用することができます。また、この規定を適用するには贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出する必要があります。 

この制度の注意点としては、一度この制度を選択すると、その贈与者から贈与を受ける財産について、その選択をした年以降すべてこの制度が適用され、通常の「暦年課税」へ変更することはできなくなります。

また、相続時精算課税制度選択後の贈与は贈与税の基礎控除である年110万円に関係なく贈与税の申告書を提出する必要があります。その他、相続時精算課税制度を適用して土地を贈与した場合、相続時に適用される小規模宅地等の特例が適用できなくなります。 

とは言え、2,500万円分も無税で贈与できるなら非常に魅力のある特例ではないか、と思った人もいるかも知れませんが、相続時精算課税制度を使って非課税で生前贈与した財産は、贈与者が亡くなったら、相続税が課せられます。「相続時」に「精算」して「課税」される制度というわけです。 

使い方によっては有利です。相続時精算課税制度では贈与時の財産の価格が相続時に適用されるため、贈与時よりも値上がりが期待できる財産について適用すると節税効果が期待できます。

また、賃貸不動産のように収益を生んでいる財産の場合、相続時精算課税制度を使って生前贈与すると、相続時までの賃貸収益は受贈者の所得になり、相続時精算課税の対象にならないという違いが生じます。所得税を上手くコントロールできていれば、有利になる可能性があります。 

生前贈与は贈与をする方(贈与者)が財産をもらう方(受贈者)に財産を無償で与える行為です。生前贈与で重要なのは贈与者の意思や希望通りに行えるということです。ただし、すべての贈与について贈与税をおまけするわけにはいきません。そこには一定の制約や制限があります。ここまで見てきた様々な制度を吟味して、早期に準備を行うことで、ご自身の判断で、ご自身の思い通りに、子どもや孫の世代に財産を移転することができるでしょう。

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