「無料」で手に入れた空き家で人生を変える

日本は深刻な一戸建ての空き家問題を抱えています。総務省発表の報道資料「平成30年住宅・土地統計調査住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要」によれば、1993年から2013年までの20年間で、その数は約448万戸から約820万戸まで、2倍近くに増加しました。住宅全体に対する空き家の割合も、9.8%から13.5%まで上昇。その背景には少子高齢化や核家族化の進展、都市の人口集中に伴うマンション需要の増加などがあると言われています。しかし、ネガティブな側面ばかりではありません。見方を変えれば、これは、都市生活者が、より快適な新しい生活スタイルにシフトチェンジするチャンスでもあるのです。 

空き家の増加がなぜ問題になるのかというと、所有者が居住せず、定期的な管理や修繕なども行っていない住宅は、急速に劣化が進むからです。そのように状態が悪くなった家屋や宅地は治安や衛生上の問題にもつながります。そこで、2014年にこの問題に対して政府が取り組みを本格化、空き家対策の推進に対する特別措置法を成立させました。これによって、各自治体から問題のある物件の所有者に対する指導や助言、さらには、強制的に所有者の義務を代行する、行政代執行までできるようになっています。この成果もあって空き家の増加はこれまでよりも抑えられましたが、今も減少には向かっておらず、前出の総務省報道資料によれば、2018年の空き家の数は約849万戸、割合にして13.6%です。こうした状況から、今度は空き家をいかに活用するかが注目され始めています。 

空き家

空き家問題は都心よりも地方の方が深刻です。とくに空き家率が高い都道府県は、1位が山梨県で21.3%、続いて和歌山県20.3%、それ以降は長野県、徳島県、高知県、鹿児島県、愛媛県、香川県が続きます。8位の香川県でも18%に達しています。東京都の10.6%と比べると倍近い割合です。(総務省「平成30年住宅・土地統計調査住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要」の統計数字に従って筆者が順位付け)

しかしその一方、都市在住者の地方への定住願望も上昇しています。2014年の内閣府の調査によると、都心に住む人々のなかで、農山漁村への定住願望のある人の割合は、60代以下の全世代で30%以上。2005年の調査時に比べ、5%以上も上昇しています。 

都心での暮らしは生活費も高く、ストレスが大きいと感じている人も少なくないのでしょう。そのような人にとっては、空き家が溢れる今の地方の状況は、絶好のチャンスと言えるかもしれません。空き家問題を抱える各地方の自治体や公共団体は、空き家の持ち主と空き家を利用したい人とをつなぐ「空き家バンク」と呼ばれる取り組みをそれぞれに行っています。また、全国各地の空き家バンクの情報を集約したWebサイトも、公募で選ばれた事業者が運営しています。

さらに、こうした社会的トレンドを受けて、空き家の持ち主と、地方で格安な住宅を探している買い手とをマッチングする民間の独自サービスも数多く登場しています。空き家の持ち主から物件を借り上げてリノベーションを行い、住居や店舗などとして入居者にサブリースするようなユニークな事業者もあります。興味のある人は検索してみるといいでしょう。

また、民泊仲介アプリのエアビーアンドビーが政府や自治体と連携して、空き家の民泊への活用を推進するといった話題も報道されました。 

民泊

空き家購入にかかる手続きは、通常の不動産を買う場合とあまり変わりません。条件を決めたら空き家を扱っているインターネットのサービスで検索して探すか、不動産会社などのサービス事業者に相談し、物件を探してもらいます。理想的な家が見つかったら実際に見学し、気に入れば申し込んで契約。必要に応じてローンを組み、あとは引き渡しを受けて修繕、入居するだけです。空き家のなかには物件価格が0円で提供されている物件もあり、修繕費用がかかるとは言え、地方で一戸建てを構えて生活する上で有効な選択肢のひとつになっています。 

空き家が活きる仕事

地方移住希望者が増加を続けていて、安価な住宅供給のリソースもふんだんにあるのに、なぜ地方への移住はあまり一般化しないのでしょうか。そのいちばんの障害となっているのが、地方と大都市との間に横たわる仕事の格差です。大都市で働く人々にとって、地方は魅力的な職にありつける環境とは言いがたく、そのために移住に踏み切れない人が多いのです。 

しかし、そんな課題を解決してくれる方法が近年広がりを見せています。それが、テレワークです。インターネットが普及したことで、地方に住んでいてもWeb会議やチャットツールで、大都市のオフィスや、世界各地の人とリアルタイムでつながり、働くことができます。社員は自宅やシェアオフィスなどで働き、必ずしもオフィスへの出勤を求めない会社も増えています。東京に本社オフィスを構えながら、小さな地方の市町村にサテライトオフィスを設けるような事例も珍しくなくなりました。近年の「働き方改革」の広がりが、こうした傾向を後押ししています。

地方と大都市の仕事の上での格差は依然として存在していますが、仕事のために都心のオフィスに縛られる必要は、徐々になくなってきています。 

事実、地方に物件を購入してふだんはそこで生活しながら取引相手とやり取りを行い、必要なときだけ都心に出てくるという暮らし方をしている人の例もあります。また、ふだんは都心で暮らし、月に何日かは地方で購入した空き家を利用しているという人も。このようなケースでは、自宅にいないタイミングでは家を民泊などに使って副収入を得るという活用法も考えられます。 

地方では概ね物価が安めですが、中でも大きく違うのがマイホームの取得費です。3人家族が東京都心まで1時間以内で通勤できる分譲住宅を購入しようとすれば、一般的に4,000万円前後からの検討になるでしょう。これが、たとえば物件価格400万円・リフォーム代600万円の地方の空き家に置き換わると、人生設計にもマネープランにも大きなインパクトがあるはずです。差額の3,000万円をどう考えるかは、各自の自由です。 

空き家のデメリット

空き家の利用にはデメリットやリスクも潜んでいるので注意深く検討する必要があります。まず、修繕費が高額化してしまう危険性については忘れてはいけません。基本的に、物件価格が極端に安いということは、それだけ建物が古く、状態が悪い可能性が高いということになります。0円の物件などでは大規模な改修が必要かもしれません。柱などの構造部から修繕すると、一般の中古物件の購入と大差ない金額になることもあります。 

また、当然ながら立地の選択肢は決して多いとは言えません。建物の状態と同様、安くなればなるほど、その土地の住みやすさは下がると考えられます。一言で「地方」といっても、地域によって利便性はピンキリ。田舎暮らしに憧れて空き家を購入していても、実際に住んでみれば不満が出てくることもあるものです。その意味では、はじめは地方の空き家をリノベーションした賃貸からトライしてみるという選択肢もあります。

不動産の流動性にも要注意です。やはりそこを離れたいと思ったときに、物件を売却したいと思っても、そもそも需要の低さで格安になっていた場合、すぐに買い手がつく可能性が高いとは言えません。販売するための費用や手間もかかります。地方で格安の物件を買う際には、多少の不満があっても固定資産税を払いながら住み続けるか、自分が定期的に利用するために保有することが前提だと覚悟した方がいいでしょう。そうでなければ、その物件はまた「困った空き家」に戻ってしまいます。 

地方で空き家を購入し生活すること自体は、費用や利便性の面において以前よりも遥かにハードルが低くなっています。また、都市に住んでいるときと変わらない仕事に就くこともできるようになってきました。もし地方での生活を夢みているなら、一度具体的に調べてみる価値はあるでしょう。とは言え油断は禁物。必要となる金額も大きく、その後の人生設計にまで関わるため、長期的に計画を立てて慎重に取り組むべきです。

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