『FinTechと金融の未来 10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?』ブックレビュー

近年、目にすることも増えてきた「FinTech」というキーワード。すでに関連図書も数多くありますが、本書はシンクタンクのものだけあって、データに裏付けられた今後の見通しが、強い説得力を持つ内容に仕上がっています。

『FinTechと金融の未来 10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?』
著者:大和総研 出版社:日経BP 単行本:408P

【どんな本?】
証券系のシンクタンクである大和総研がFintechを主題に10年後の金融ビジネスを占い、以下の各章の内容でまとめた解説書です。
序    章  FinTechがもたらす金融イノベーション
第 1 章  FinTech企業先端事例の10年後の可能性を探る
第 2 章  FinTechが金融ビジネスの稼ぐ力(“発想力”)を強化できるのか
第 3 章  サイエンスとテクノロジーによる金融サービスの再構築
第 4 章  本当に規制が制約なのか
第 5 章  FinTechから見通す我が国の金融ビジネスの未来

本書は、金融イノベーション(革新性)を“『人の新たな発想”דキーテクノロジー”ד正しい規範・規制”』と定義し、掛け算であるため、いずれかの項目がマイナスになれば顧客に対してマイナスのイノベーションを生み出すことになってしまうと危惧するところからスタートします。

そのような状態を避けることを目的に、FinTechによって革新的ビジネスに携わる人への“正しい”「道しるべ」としての役割を持つことを企図して、本書は構成されています。

(編著)大和総研:序章を含め計6章からなる本編を大和総研の有識者9名が分担して執筆しており、全章統括を大和総研金融調査部主席研究員・内野逸勢(うちのはやなり)氏が担当しています。
(全章統括)内野逸勢:大和総研金融調査部主席研究員。1990年慶応大学法学部卒業、大和総研入社。金融調査部でFinTech、金融機関経営、地域金融、金融資本市場、グローバルガバナンスを中心に担当。2017年より現職。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」にて委員を務める。金融関連の執筆多数。(「BOOK著者紹介情報」より抜粋)

革新的ビジネス

第1章 132P
日本では隙間やニーズが異なり、現在FinTechが注目を浴びている分野でも目立った進展は見られない。

・例えば「WeChat Pay」「Alipay」が浸透している中国と比較して、一見、後塵を拝しているイメージがある日本のFinTechの状況についてです。これまでは、あくまでも取捨選択的に必要なテクノロジーが導入されてきたにすぎず、決して技術面の遅れがあるわけではありません。しかし、今後に関しては、電子マネーや生体認証ATMなどのサービスは世界に先んじて提供されているとはいえ、日本のガラパゴス化した限定的なサービスでは、遅れをとる可能性が高いかもしれません。

ガラパゴス化

第2章 190P
第四次産業革命とも呼ばれるビッグデータや人工知能(AI)などの技術革新が誘発する社会変化も大きくなる可能性が高い。

・今後、人工知能やロボット等による仕事の代替で、中間所得者層の減少により所得格差の拡大が懸念されています。顧客が金融機関に求める付加価値の変化への対応がFinTechの役割となるのでしょうか。

技術革新

第3章 270P
“隙間”を埋める役割を果たしているのが、テクノロジーである。特に、金融サービスの利便性を高めるテクノロジーに対する期待が膨らんでおり、これに便乗しようと新たなFinTechスタートアップが乱立しているのが現状であろう。

・FinTechスタートアップの乱立に対し、既存の金融機関が自らのサービスの隙間(=課題)を解析・再構築する構図になれば、顧客にとってはサービスの向上が期待できそうです。

第4章 314P
イノベーションが、人々に、より利便性の高いサービスを、安心、安全に提供することを目指すものである限り、人々の安心、安全を守る役割を担う規制は、本来、その阻害要因とはならないはずだ。

・第4章では、規制がイノベーションの制約要因になるかについて書かれています。法などの規制が時流にそぐわない状態になることはままあることですが、「イノベーション」を優先して規制を後回しにすると、心ない者によって悪用されることは想像に難くありません。「イノベーション」と「規制」が対立する位置に存するというような誤った先入観は廃さなければならないでしょう。厳しい規制がさらなるイノベーションの発展に寄与することもあり得るかもしれません。

ルール

第5章 380P
AIが顧客のニーズ、求める付加価値を探ることはできない。これは人の役割である。

・冒頭で、金融イノベーション(革新性)が『“人の新たな発想”דキーテクノロジー”ד正しい規範・規制”』と定義されているように、本書ではあくまでも「人」がFinTechのベースにあることに帰結しています。これからの10年、技術と人のコラボレーションにおいて「人」の役割がどのように変化し、「人」が金融イノベーションに対してどのように関わっていくのでしょうか。“変わるもの”だけに目を奪われ、“変わらないもの”を置き去りにしないように意識し続ける必要があると留意します。

人の役割

普段から類書に慣れ親しんでいない場合、読み進めるのが大変な箇所も少なくない印象はありますが、巻末に用語索引もあるのでその点は親切な設計になっています。本書では、FinTechを軸に10年後の金融の未来を見据え、同時に既存金融業の課題を炙り出しています。金融機関の信用収縮が発生し、金融システムの機能が大きく低下したリーマンショックの経験を経て、これから先の10年はどう変化していくのでしょうか。本書が10年後にどんな価値を持っているかに注目です。

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